美少女フィギュア業界のブロガーとして、20周年を迎えたmoeyo.comの管理人「もんぷち。」が、美少女フィギュアメーカーや原型師さんに、気になったことをあれこれとお聞きする、以前「moeyo.comサポーターズ」有料会員様限定記事として好評いただいたこのインタビュー記事シリーズ「もんぷち。が聞く!」が、20周年の期間限定で復活!記念すべき第1回目は、ヴェルテクスさんの大人気シリーズ「エルフ村シリーズ」の原型を多数手掛けられるほか、ジェントルメンさんのアダルトフィギュア「ユナ Illustration by Biya」の原型も担当されるなど、現在多方面で大活躍中の原型師「ふぉるとねいしょん」さんに、あれこれお伺いしました!画像はふぉるとねいしょんさんの代表的なフィギュアの一つヴェルテクス「エルフ村 第5村人 ククル アンテナショップ限定版」。(公開:2025年01月)
原型師名の由来は東方Projectの鍵山雛から。
もんぷち。(以下 も):本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、原型師名の由来などあれば教えてください!
ふぉるとねいしょん さん(以下 ふ):東方Projectの鍵山雛(*1)というキャラが昔から好きで、そのキャラクターの元ネタの一つに「フォルトナ」という女神があるのですがそれをもじった物です。カタカナでもよかったのですがそれだと技名みたいになってしまって中二病感が出るので、もっとゆるい感じにということでひらがなにしました。
も:確かにひらがなのほうが緩い感じでよいと思います(笑)
*1:鍵山雛(かぎやまひな)は「東方風神録」のStage 2のボスとして初登場した「東方Project」シリーズのキャラクター。
やっぱり好きな事に時間を使って後悔なく人生を全うしたい
も:差し支えなければ年齢、出身地など簡単な経歴も教えて頂いてよろしいでしょうか?
ふ:現33歳です。たまに自分の年齢忘れるんですが計算したら合ってました。
山形の雪深い地域の出身で高専を卒業するまでは県内に居ました。
高専を卒業して就職の際に上京してメッキ工場に就職後、自分の本当にやりたいことを見つける為に離職して一度実家に戻り、実家の鉄工所で数年働いてお金を貯めつつ自分を見つめ直しておりました。
やっぱり好きな事に時間を使って後悔なく人生を全うしたいと思い、フィギュア原型師を目指してみようと思い再度上京して中野のフィギュア学校に通いました。
運よく在学中に都内のフィギュアメーカーである「株式会社エムアイシー」に磨き、複製のアルバイトとして入社し、そこで数年下積みをした後、自主製作で参加していたワンフェスでの出品作品を通して他社メーカーからも原型製作の依頼が来るようになり、フリーランス原型師として独立しました。
フリーランスとして数年活動しているうちに、いろんなメーカー様から依頼を頂けるようになりそれと並行して税金も次第に高くなり、節税の意味も兼ねて「WoF合同会社」を立ち上げ法人化して現在に至ります。
も:「WoF合同会社」さんの名前の由来などは…?
ふ:原型師名の由来にもなった東方Projectの鍵山雛のスペルカード(技みたいなもの)のうちの一つ、「wheel of fortune」の頭文字です。
も:本当に東方Projectの鍵山雛がお好きなんですね!(笑)
ふ:決して人気と知名度のあるキャラではないのですが、当時商品化される事も稀だったので自分で最初に造ったフィギュアもこのキャラでした!
作ったのは2015年で、まだフィギュア学校に行く前に実家で独学で原型、複製、彩色まで行いWF2016Wで販売しました。
それもあって思い入れが強いですね。
も:それは本当にすごい思い入れですね…!そこまで好きなキャラクターがいるのは少しうらやましいくらいです。(笑)
お話の下りにもありましたが、自分を見つめ直した結果、どうしてフィギュア原型師を目指してみようと思ったのでしょうか。
ふ:やはり好きな事で生きていきたいというのがありますね。人生アッという間ですし人生の1/3近くを仕事に費やすのならば尚更そう思いました。
それに加えて、元々立体物が好きで高専時代からフィギュアを買い集めていたのですが「自分でも好きなキャラを造れたら楽しいだろうな」という思いが当時からあったのと同時に、原型師という職を知ったのもその時でした。
当時から東方Projectにドハマりしており、良く買い集めていたフィギュアもそのシリーズでした。その中でもi-con(*2)さんが造るフィギュアが自分の中では断トツで魅力的で強い憧れがありました。
その憧れを捨てきれず「自分もそうなりたい」という想いが年々強まってフィギュア原型師の道を選びました。
といっても当然最初から巧くは造れず悶々としていた所、株式会社エムアイシー勤務の時に師匠とも呼べる方と知り合い、その方と土日も付きっきりで原型製作の面倒を見てもらいました。
*2:i-conさんは残念ながら2019年に倒産してしまったグリフォンエンタープライズから発売されていた「東方プロジェクト」シリーズのフィギュア原型師として有名な方で、最近ではAMAKUNIさんの「ARMS NOTE 水泳部の部長ちゃん」などの原型を手掛けています。
顔は人形の命というだけあって、元絵よりも120%以上可愛く造る事を意識しています。
も:憧れをあこがれのままにせず、しっかりと実現されたのは凄いと思います!
ふぉるとねいしょんさんが原型を作成する上での個人的なこだわりや、力を入れているポイントなどを教えてください!
ふ:せっかくの立体なので、イラストよりも立体としての魅力や見応えは絶対必要だと考えております。
自分の場合は立体映えをかなり意識するので髪や衣装の裾等のなびきやすい部分は元イラストより大きくなびかせ、ポージングにも外連味を持たせるよう意識しております。
顔は人形の命というだけあって、元絵よりも120%以上可愛く造る事を意識しています。
勿論キャラクターの性格や設定も加味して、それを壊さない程度にアレンジを加えていく様なイメージですね。
も:なるほど、やはり顔は命ですもんね!
もう少し踏み込んだ質問になりますが、お顔以外でふぉるとねいしょんさん自身の「癖」に基づいて、特にこだわっている部分とかはありますが?
ふ:結論から言うと髪の毛、お尻、パンツの造形ですね(笑)
髪の毛は先ほどの話と少しかぶりますが、ポージングに外連味を持たせることと、女性らしい表現を加えること。そのあたりを引き立てるうえで重要な要素だと思っていますので、とても気にして造形しています。
お尻なんですが…。20代とか若いときは圧倒的に胸派だったんですよ。それがどうしてか、30超えたあたりから「尻…いいなぁ…!」に変化しまして。(笑)
も:年を取ってくるとだんだん上から下のほうに「癖」が移るとはよく言われていますよね。(笑)
ふ:自分も若いときはそうやって聞かされていて「いやいやこんなに胸派なのにそうはならないでしょ!」って思っていたのですが…気が付けば尻派になってましたね…。(笑)
も:自分もそんな感じでした!不思議ですよね~。(笑)
パンツに関してはどのようなこだわりが?
ふ:お尻派にはなったんですけど、丸出しのお尻というのが個人的にはあまり好みではなくて、布越しに感じられるお尻の肉感の魅力…と言ったらいいんでしょうか?布のしわや食い込みが加わった美しさといいますか…そういう意味ではパンツだけではなく、バニースーツや水着などでも同様に好みと言えます。なので特に個人ディーラーの作品として何かを作るときには必ずパンツ的なものは履かせたいですし、そのあたりの造形もこだわっています。
もちろんお仕事の原型で丸出しのお尻を作る際には、自分の全力で挑ませていただいています!(笑)
原型はZbrushでローポリから作る派
も:原型作成手順や、使っている道具、お勧めの使用方法などあれば教えてください。
従来のZbrushのUIからふぉるとねいしょんさんが良く使う機能を使いやすい位置にカスタマイズして使っているとのこと。
ふ:昔はニューファンドを使って手原型で製作していたのですが、現在はZbrush(*3)でデジタル原型で製作しているので、Zbrushでの手順を説明したいと思います。
先ずはZbrush上で素立ちのTポーズのマネキンを用意して、製作するキャラクターの頭身バランスや体系を整えていきます。このときに顔、髪もある程度作ってしまいます。
次にポーズ付けをするのですが、Zbrush上ではポージングのアンドウをしすぎると体バランスが崩れてきてしまうので、アンドウを減らすのとイメージを確実なものにするために可動フィギュア素体若しくは可動美少女プラモを使ってポージングをとらせてみます。
そこで湧いたイメージを維持しながらZbrushでポーズを付けていきます。ポーズを付けた後衣装を作って行くとポージングが大人しく見えてくるので、ポーズの動きを大きめにつけておきます。
ポーズができあがったらローポリ(*4)で衣装を作っていきます。ダイナメッシュ等でのハイポリ(*4)でもよいのですが、後々の修正のしやすさとデータ容量が大きくなって動作が重くなるのを防ぐためにローポリから作る派です。
衣装や必要なパーツが揃ったら全体をチェックしてバランスが良く見える様に服の面積、肌の面積を微調整して徐々にハイポリ化していきます。元イラストに合わせても良いのですが、あくまで立体である以上実際に色が付くとバランスが変わって見えてしまうのでここで気持ちの良いバランスに仕上げておきます。
完全にハイポリ状態になったのち、ある程度煮詰めたら監修用に画像を提出します。
画像確認後、仮出力をして問題が無ければデータをそのまま分割して提出、修正があれば調整して再度監修です。
仮出力無しで一発で本出力のケースもあります。
*3:Zbrushはフィギュア原型制作のためのデジタルツールの名称。ゲーム開発でも3DCG背景やキャラクターの制作などに用いられる場合がある。
*4:ローポリ3Dモデルとハイポリ3Dモデルのこと。ローポリモデルはポリゴン数(立体を構成する面の数)が少ないため、見た目がシンプルです。ハイポリモデルはポリゴン数が多いので、より繊細な見た目になります。ゲームで例えるとプレイステーション1の3DCGがローポリ、プレイステーション4や5の3DCGがハイポリといったイメージです。
「エルフ村 第5村人 ククル」が独立したての自分の知名度を上げるきっかけだった
も:ご自身作成の原型で、特に思い入れのある作品などがあれば教えてください。
ふ:そうですね、原型師活動の転機となった作品が幾つかあります。
まだ株式会社エムアイシー勤務の際にWF2020Wで展示したアズールレーンの比叡、三笠はこれを見に来た他メーカーさんから商業の相談が来るようになり、フリーランスとして独立のきっかけとなりました。
「エルフ村 第5村人 ククル」(*5)は発売当時(2021年)コロナ禍でホビーブームが来たのもありますが大変好評で独立したての自分の知名度を上げるきっかけになったのと、同シリーズを続けて担当できるようになった事で思い入れがあります。
ヴェルテクスさんが展開中のエルフ村シリーズの一つ。ふぉるとねいしょんさんは「エルフ村第5村人ククル」のほか、「第14村人 ママ・ティアナ」「第12村人 ルルーニャ」「ダークエルフ村 第4村人 カミラ」などなど、実に多数のエルフ村シリーズの原型を手掛けています。画像は発売当時掲載した「アンテナショップ限定版」の製品版レビューより
も:エルフ村シリーズの原型といえば!とまず思い浮かぶくらい多数の原型をこなされていますものね!ちなみにエルフ村の原型は具体的にはどのような感じで進めていらっしゃるのでしょうか?
ふ:エルフ村に関してはだいぶ自由にやらせて貰ってます。
事前に細かいオーダーも特に無くこちらのペースで一気にほぼ完成状態まで持って行って監修することが多いです。
普段よりも外連味マシマシ、ムチムチ感マシマシで造る事が多いですが、イラストレーターさんのテイストを崩さない程度に抑える事には注力しています。
それでもたまにやりすぎてしまいますが…(笑)
他直近ではWF2024W向けに製作した勝利の女神NIKKEのブラン、ノワールは自分のガレージキットディーラーとしての側面もユーザーに広く認識頂いたという点でも思い入れがあります。
原型の依頼が来るのが嬉しすぎて案件を抱えすぎた結果、食事と睡眠を疎かにして髄膜炎に
も:ご自身の原型師の仕事上での面白エピソードや失敗談、感動した話など何かございましたらお聞かせください。
ふ:フリーランスになりたての頃、原型の依頼が来るのが嬉しすぎて案件を抱えすぎた結果、食事と睡眠を疎かにして髄膜炎(*5)で入院しました…。
半身不随になったり後遺症が残りやすい病気だったのですが幸い後遺症もなくスッキリ回復しました。
当時付き合っていた看護師の現妻と退院後に結婚し、それ以来しっかりとした健康指導が入っていますので、いまは体調管理には気を付けてます。
どうしても座り仕事で運動不足になりがちなので運動も毎日やってます。
いろんな方が既に仰っていると思いますが、デスクワーカーは本当に運動した方が良いです。身体が動かなくなったり死んでしまってからでは何も作れないので。
も:自分もデスクワーク中心になってしまいがちなので耳が痛いですね…。気を付けていきたいと思います。
*5:髄膜炎(ずいまくえん)は、脳や脊髄の表面を覆う「髄膜」に炎症が起きる病気。
今後も自分にしかできない表現を盛り込みつつ、唯一の魅力を持つフィギュアを造っていきます
も:最後となりますが、原型師を目指している方や、ファンの方に何かメッセージをいただければ。
ふ:これから原型師を目指される方は、まずは手を動かしてたくさん作品を作ってください。どんなに上手く造れなくても、作品をSNS等に上げ続けていればメーカー様からお声がかかりやすくなります。
数を造るといってもただ漠然と何も考えずに造るのではなく、「どこがうまく造れたか」「どこが苦手だったか」を都度チェックして上手く造れた部分は更に伸ばし(貴方唯一の武器になります)、苦手だった部分は失敗してもいいので試行錯誤して次の作品に活かしていくと恐ろしいほどの伸びしろが得られます。手だけでなく、頭もフル回転して造る感じです。
最初から巧い人はいませんし、メーカーさんもそれをわかっているので最近は伸びしろもチェックしているような感じがします。
それと何より大事なのが社会的な一般的マナーかと思います。
マナーと言ってもハンコの角度やお酌の時のビール瓶の向き等の近年のよくわからないマナーではなく、報連相、言葉遣い、レスポンスの早さ等、社会人として最低限必要なマナーの事を言います。
どんなに作品が巧くても、コミュニケーションがうまくとれない人とは誰も仕事をしたがりません。原型師である以前に、いち社会人である事を忘れないでください。
逆に言えば、人となりがよければ作品に多少粗があってもメーカーさんからご厚意頂く場合も本当にあります。
次にファンの方々にですが、まずはこの場を借りてお礼申し上げます。
キャラやタイトルだけでなく原型師推しで購入頂いたり、購入頂いたガレージキットを組み立てて投稿して頂けるのは本当に嬉しいです。
XやBOOTH通販でのメッセージも応援や期待して下さる物ばかりで、ファンの皆様の暖かさに毎度驚かされます…!
今後も自分にしかできない表現を盛り込みつつ、唯一の魅力を持つフィギュアを造っていきますので宜しくお願い致します。
インタビュー内容は以上となります!ふぉるとねいしょんさんお忙しい中ありがとうございました!
ふぉるとねいしょんさんとは以前ひょんなことからお会いすることがあり、そのご縁で今回このインタビューをお願いさせていただきました。
インタビューをする中でとても穏やかな口調とは裏腹に「原型師」というものに対しての並々ならぬ情熱を感じました。それだけでなくまだ33歳という若さでありながらも原型師をきちんと「仕事」としてとらえられていて、芯の通った考えをお持ちな方だなと思いました。
そういえばお話の中の余談で、鉄工所勤務時代に職人気質の父からその「職人」としての姿勢やこだわり、プライドみたいなものに影響を受けたかもしれないとおっしゃっていましたので、そういった部分をしっかりと受け継いでおられるのかもしれません。
ふぉるとねいしょんさんは2025年冬のワンフェスで新作の「勝利の女神NIKKE ディーゼル」を展示予定。
*ふぉるとねいしょんさんの許可を得て特別に画像をチラ見せ先行公開させていただきました!
他活動は是非ふぉるとねいしょんさんのX(@89fortunation)をフォローしてご確認ください!
次回以降も不定期とはなりますが、20周年特別記事は今年(2025年)中、継続的にインタビューを掲載予定です!
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文:もんぷち。